第2話(八):葛飾区:東新小岩:夜

mage_icon_headOnly

 
 島﨑カーファクトリーから車が出て行くのを、有華は見逃した。厳密にいえば車の音には敏感に反応したけれど、瞼が重くて上がらなかった。
「うぁ……ね、寝ちゃった」
 涎を拭き、あわててイグニッションキーに指をかけた。ひねりかけて――やめる。エンジンをかけなければ、遠ざかる車の音がよく聞こえるからだ。窓を開ける。深夜で車が少ないこともあり、排気音は明瞭だった。シフトタイミングにしろアクセルワークにしろ、甲斐原のそれだと手にとるようにわかる。
 有華に方向転換して追いかける気力はなかった。今日は帰ろう。帰ったほうがいい。体力的に限界だ。

“第2話(八):葛飾区:東新小岩:夜” への3件のフィードバック

  1. ご指摘あった誤植を直しました。 

    誤)警察まで引きつけれて
    正)警察まで引き連れて

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。