第2話(二):千代田区霞が関:午前

「実は……トラックのリコールの件、ベガス社は透明性をアピールしようと頑張りすぎた嫌いがある。不具合について公表された資料が、詳しすぎるんです。半導体の型番までが、広く出回っている」
「ははぁ。正直すぎるのも困りもんってわけだな」
「……特に、このカメラ画像を処理するチップが曲者です。最近発表されたSoCで、何十億画素もある気象衛星のカメラにも使われてるそうです。車専用じゃない汎用チップだから、その気になれば誰でも手に入れることができる。誤動作するかしないか、誰でも実験できる。そして、こいつはSoCだ」
「そのソック……って何だぃ?」
「システム・オン・チップ。画像処理を担うデジタル回路以外にも大容量のDRAMやアナログ回路まで、様々な機能を統合した盛り合わせの半導体です。掌サイズの石ころだが、こいつは立派なコンピューターだ」
 プロジェクタに半導体の拡大図が投影された。立っていた捜査員がその一角をとんとんと指で小突く。
「チップ上の……この部分に、無線通信用の信号処理部まで盛り込まれている。もちろんアンテナはつながってません。ですが、本当に無害と言い切れるのかどうか」
「要するにぃ、運転手が寝ていたわけでも、ベガス社の過失でもなく、第三の可能性が……誰かが外からバスを操って、故意に事故を起こした可能性があるってことかい?」
 誰もうなずきはしない。否定もしない。黙っている。
 末次警視が背伸びをして、パイプ椅子がしなる音が――ぎぃ、と響く。「……国交大臣の息子が殺されたとみるべきか、否か。分かれ道ってわけだ」
 殺された。
 その響きに、緒方は生唾を飲んだ。

“第2話(二):千代田区霞が関:午前” への1件のフィードバック

  1. バス事故のあった料金所の場所を明記し、捜査に参加しているプレーヤーを増やしました(神奈川県警・千葉県警)。また、科捜研にくわえて柏(柏市にある科警研)にも少し触れることにしました。 

    #大筋には一切変更ありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。