「警察官と同等!? ……僕が……ですか」
垂水は片方の眉を動かして、悪戯っぽく笑った。「一種の試験、覚えてるかな。性格診断みたいな項目があっただろう? 何が目的だと思う?」
「職務上の適性を計られている。そういう感覚はありました」
「電網庁は日本中のネットワークプロバイダを統合、つまりネットを事実上国有化した。そして集めた人材を二手に割った。ソフトやハードを開発する連中は開発局へ。システム管理が仕事の連中は管理局へ。そして今から第三の部局が誕生する。現在、メンバーを選抜中でね」
「それが……」
「公安局。電網免許証の規定する義務を国民が守っているかどうか常に目を光らせ、現行法の手が届かないサイバー犯罪やサイバーテロを抑止する組織。ネットのおまわりさん。電網0種を保有する『電網公安官』で構成する組織だ。十和田も公安局入りを希望していたが、適性検査で落ちた。今回の事はその腹いせかもしれない」
「電網、公安官……」
「君の配属された特命課は、その母体なんだ。ようこそ公安局へ。期待通りのいい働きだった」
垂水の求めに応じて握手をしながら、香坂は思いつきを口にした。
「もしかして……局次長ですか? 僕にメールを投げてきたのは」
「メール?」
「短い文面でした。UNKNOWNって署名があった。名無しって……誰です?」
垂水は苦笑して頭を搔いた。心当たりがあるらしい。
「僕じゃないけどね。それ、返事は書いたの?」
「……返信すべきでしょうか」
「さぁてね。特命課の責任者は岩戸さんだから、彼女に会って確認したらどうかな。たぶん君の研修期間に関係がある……何か意味があると思ったほうがいいかもしれない」
「研修……期間。つまり香坂一希はお試し中ってことですね?」
「電網公安官としての、ね。研修が済めば、晴れて正式なゼロ種保持者となる」
「今日のことは、プラスですか」
「二人だけで行動したのは減点対象かもな。上司への報告は最優先。もっとも今日は特命課が出払っていたし、無理もないけれど」
「常代さんの勇敢な行動がなければ、犯人逮捕には至らなかったと思います」
それを聞いて、垂水は抱えていた背もたれから身体を離した。背筋を伸ばして有華の方に向き直る。
「ちょっと無茶だなぁ……常代さん。総務省傘下といっても、君は独法の職員なんだから。怪我なんかしないでね」
「……はい……」
有華がしょげかえる。
香坂は咄嗟に助け船を出した。「今回の件は……常代さんのお手柄にしてください」
「は!?」有華が驚いて目を丸くした。
「彼女が、僕に適切な指示を与えてくれました。トイレの真ん中が……」
がたり。垂水は香坂の言葉を制するように立ち上がった。
腕時計をひとにらみして、こう告げる。
「……電網庁へ転籍を希望していることは、僕の耳にも届いてます。でもね、最終的な判断は岩戸女史になると思う」
それから有華の肩をぽんと叩いた。「特命課が出払ってた留守を、守ってくれて感謝します。希望、叶うといいね」
「……はい」
香坂は立ち上がり、垂水を引き留めようと粘った。
「あ……あの。全部説明させてください。常代さんが……」
その時だ。
シャツの裾を、有華が引っ張った。
「いいって……黙れっ」

読者様からご指摘があって、誤字を直しました。
誤)最期の質問
正)最後の質問