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ハッカーと公務員、その矛盾について。

香坂君自身の独白による前口上「ハッカーと公務員」を、本編の第0話(一)に加筆しました。心の声で伸び伸びと語ってくれます。

(以下、加筆部分)

 公務員ほどハッカーと矛盾をきたす職業も珍しい。公務員はオープンかつ潔白でなければならず、一方のハッカーは閉鎖的でモニョモニョゴソゴソと怪しいのが常である。「ハッカーを犯罪者のような目で見るのは大きな間違いで、悪意のあるハッカーのことはクラッカー、あるいはブラックハットと呼びましょう」などと主張する輩もいる。「現代の子供はハッカー的な資質を磨くべき」などと推奨する風潮もある。しかしいずれもハッカーの本質たる〈反社会性〉に蓋をしている、と香坂は感じる。ハッカーは犯罪者でないにしろ、およそ社会的な存在とは言いがたい。

 たとえばプログラマ(おおむねハッカーとはプログラマだ)業界には「くだらないと思う仕事には一切手をだすな」という格言がある。まったくもってその通りと香坂は納得する反面、これを公務員にあてはめれば国家は明日にも転覆するに違いないと思う。また「ハッカーの能率を上げたいなら、他の社員がいない時間に出勤させるか、自宅でやれと命じるべきだ」という名言もある。これを公務員に当てはめると、昼の間ずっと市町村役場のシャッターが降りることになる。というわけで、ハッカーは協調性を犠牲にしてのみ成立する存在だ。いや、ハッカーはハッカーとはつるみたがるから、一般人との協調について絶望的というべきか。いずれにせよ公務員とハッカーは、まことに、途方もなく相容れないのである。

 翻って、公務員の道を選んだ自分はどうなのか? こと「電網庁」に限ってのみ、ハッカーであり続けることが可能だと香坂は結論している。民間企業を束ねて発足した画期的な組織。開発局という部署を持ち、大量のエンジニアを雇用している。きっと有能なハッカーがごろごろいる——筈だ。明日の初登庁が心底待ち遠しい。

 ところでハッカーにはいろんな敵がいる。協調性を強制してくる連中、なかでも「母親」という生物はかなりの難敵だ。詮索好き。常識を振り回す。自宅から通う学生ハッカーの分際では、食事のバランスからガールフレンドのチョイスまで微に入り細に入り意見され、連戦連敗を余儀なくされた。社会人になり独立してからも、電話や電子メールを駆使して情報戦を挑んでくる。もちろん恩義も愛情も感じるわけで、それがなおさら難敵を難敵たらしめている。

 というわけで、母親との長電話はハッカーにとって丁々発止の勝負事。暇と体力がたっぷりあるときに限り、香坂は電話するよう心がけている。この日は歴代最長記録を更新する勢いがあった。通話開始時刻は、香坂が高速バスを降りた朝六時十五分。
「事故? ……あのな、お母さん。どっかで夜行バスが事故ったからいうて、夜中の三時に電話してもそら出ぇへんよ。寝てるって。死んでへんわ。アホな。修学旅行? 高校生? ……母上、僕は大学まで出た立派な社会人ですよ。イエス、立派に生きておりますとも」

(以下はぜひ、本編をお読みください)

 

加筆した理由

(物語的に必須というより)小説作品のリズムとして、このあたりに地の文を長く挟んだ方がいいと考えたからです。そう考えた理由は3つ。

①動きが連続しすぎている為、運びを小休止させる
②香坂というキャラクターへの親しみを深めてもらう
③母親と香坂に適度な対立軸を作り、長電話のエピソードにつなげる

さて、読みやすくなっているでしょうか? 比較した感想などがあれば、ぜひお聞かせください。


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